慶應義塾大学医学部 血液内科

Division of Hematology Department of Medicine Keio University School of Medicine

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診療 慢性骨髄性白血病

概要

血液を流れている白血球・赤血球・血小板などの「おおもと」の細胞を造血幹細胞といいます。慢性骨髄性白血病(CML)は、この造血幹細胞の遺伝子に異常が起こり、発症します。その結果、成熟した血球(特に白血球)が必要以上に作られますが、症状はほとんど出ません(慢性期)。

しかし、治療せずにいると、慢性期はやがて急性期に移行します。急性期では細胞の増殖だけではなく成長(=分化)にも障害が起こり、未熟で役に立たない血球(=芽球)が増加します。急性期に移行した慢性骨髄性白血病は予後(病気の見通し)が極めて不良です

症状

慢性期では、血球が必要以上に作られることにエネルギーが費やされ、体重減少や微熱を呈したり、左上腹部にある脾臓が大きくなり、腹部膨満感や胃の不快感を訴えることがあります。しかし、多くの方は自覚症状に乏しく、健康診断などで偶然に発見されることがほとんどです。

急性期に進行すると、未熟な細胞が増加し正常な血球が減少します。その結果、貧血・感染症・出血など急性白血病と同様の症状がみられます。また、急性期では発熱・骨の痛み・肝臓・脾臓のはれなどもみられることがあります。

診断

炎症や風邪などの感染症がないのに白血球数が増加する場合に慢性骨髄性白血病を疑います。どんな種類の白血球が増えているかを確認し、次に骨髄検査を行って、慢性骨髄性白血病に特徴的な染色体の異常(フィラデルフィア染色体)、あるいは遺伝子の異常(bcr-abl遺伝子)が見つかれば診断が確定します。

治療

慢性期の治療は、以前は、大量の抗がん剤や全身への放射線照射によって、体内の慢性骨髄性白血病細胞を正常造血幹細胞と一緒に殺してしまい、その後、他人から新しい造血幹細胞を移植するという治療(同種造血幹細胞移植)が標準的に行われていました。しかし、現在ではチロシンキナーゼ阻害薬が第一選択になります。

チロシンキナーゼ阻害薬には、第1世代のイマニチブ(商品名:グリベック)、第2世代のダサチニブ(商品名:スプリセル)、ニロチニブ(商品名:タシグナ)、ボスチニブ(商品名:ボシュリフ)、第3世代のポナチニブ(商品名:アイクルシグ)の5種類があり、それぞれの患者さんに合わせて薬剤を選択します。これらの薬剤の効果は非常に高く、長期成績が明らかになっているイマチニブでは、治療開始8年後でも90%以上の人が急性期に移行せず元気に生活しています。チロシンキナーゼ阻害薬を服用すると皮膚の発疹・目の周りの腫れ・むくみ・吐き気・下痢・筋肉の痛み・肝臓や腎臓の機能の低下などが起こることがあります。他に、薬剤に特有の副作用として、ダサチニブでは胸水や腸炎、ニロチニブでは血糖値の上昇や膵炎、心機能障害、ボスチニブでは下痢などが知られていますが、適切な対処を行うことにより、ほとんどの場合は問題なく内服可能です。ポナチニブには心筋梗塞や脳梗塞、網膜動脈閉塞症による失明などの血管閉塞性疾患や肝不全の報告があり、十分な注意が必要ですが、第1・2世代チロシンキナーゼ阻害薬で十分な効果が得られない患者さんにも効果が期待できる薬剤です。

急性期の治療は、チロシンキナーゼ阻害薬だけでは効果が不十分なため、抗がん剤による治療(化学療法)や、造血幹細胞移植を検討します。

生活上の注意

医師の指示に従ってしっかりと薬を内服することが大切です。不適切な内服は薬剤耐性の原因となるので注意してください。慢性期では通常の生活をして全く問題はありませんが、過度の疲労は避けるようにしましょう。

慶應義塾大学病院での取り組み

慢性期ではチロシンキナーゼ阻害薬で治療を開始し、採血及び骨髄検査を行って治療効果を確認していきます。

原則として、慢性期の状態を維持するためにチロシンキナーゼ阻害薬は一生涯服用を続けることが必要であるとされてきました。しかし近年の研究で、染色体/遺伝子検査で慢性骨髄性白血病細胞が消失している状態を一定期間以上維持している患者さんのうち、約半数でチロシンキナーゼ阻害薬を中断できることが明らかになってきました。当院でもそのような非常に良い状態の患者さんを対象に、チロシンキナーゼ阻害薬を中断する臨床試験を行っており、すでに70名ほどの患者さんが参加し、約半分の患者さんがチロシンキナーゼ阻害薬を長期に中断しています。